

NPO青山デザインフォーラム(ADF)主催の「ADFデザインアワード2026」の審査結果が2026年3月に発表されました。今回は、文化的建造物カテゴリーで最優秀賞を受賞された小池啓介氏をインタビュー形式でご紹介いたします。

小池啓介 / Keisuke Koike
建築家としての経歴について教えてください。
私は現在、東京を拠点として活動しています。東京近郊の海と山のある街で生まれ、古い伝統的な日本家屋で育ちました。その家は敷地の中心に建ち、鬱蒼とした緑に囲まれており、内部は薄暗く、子供のころには少し怖さを感じる空間でした。まさに谷崎潤一郎が「陰影礼賛」で描いたような空間でした。庭からの木漏れ日が畳に反射し、室内を淡く照らし出していたのを鮮明に覚えています。それはまるで周囲の環境と建築の境界が溶けたような感覚で、私の原風景でもあります。私は常に、そのような建築と環境の関係性を生み出したいと考えています。
建築のどの分野や段階を専門にされていますか。
特に得意としている分野はありません。小さな建築、大きな建築、個人住宅、公共施設など、用途や規模といった与条件に対して最善の計画を行うことは当然ですが、それ以上に重要なのは、そこにいる人にとってどのような空間がよいのか、また周囲の環境に対して建築がどのようにあるべきなのかだと考えています。そのため、どのような建築にも対応できるようになりたいと思っています。また、建築はクライアント、コミュニティ、協働者、施工者といった多くの人々とともにつくり上げるものです。そのためのコミュニケーションはとても重要だと考えています。
アイデアを生み出すとき、特定の情報源からインスピレーションを得ていますか。考えを整理するための独自の方法はありますか。
周囲の環境を読み解くことがとても重要だと考えています。その場所が持つ歴史、自然、文化を観察・分析し、建築がどのようにあるべきかを洞察します。その際には、常識とされていることに対しても批評的な立場をとり、建築の原初に立ち返りながら、現代においてどのようにあるべきかを考えられるよう日々努力しています。
建築以外で興味のあるクリエイティブな分野はありますか。もしあるなら、それを建築の仕事に取り入れていますか。
音楽、絵画、映画、書籍など、あらゆる芸術に興味がありますが、料理にも強い関心があります。口に含んだ瞬間に完成するよう計算された瞬間のクリエイティブは、建築とは異なる時間軸にあり素晴らしいものだと思います。ただ、建築について考えるときにこれらの芸術を意識的に参照することはありませんが、間違いなく影響は受けていると思います。
受賞作品の背景と、それがどのようにして実現したのかを教えてください。
友人の医師からの依頼で、このプロジェクトは始まりました。敷地は交通量の多い幹線道路沿いにあり、日本の地方によく見られる無個性な場所でした。クライアントからは必要諸室や計画的な要望はありましたが、それ以外は一任されました。そこで、できる限り良い建築をつくるのはもちろんのこと、周囲の環境にも良い影響を与えられる建築にしたいと考えました。
病院環境において、「待つ」という行為は滞在中の主要な要素となります。医療行為は検査や診察、手術など、患者が受動的な立場にある時間が多いためです。この待ち時間は通常、テレビやスマートフォンを利用して暇をつぶす時間として捉えられがちですが、この「待つ」という時間を、建築的アプローチによって「時間を過ごす」という積極的で能動的な体験へと変換できないかと考えました。
そのため、庭をつくるなど様々な工夫を行い、建物の内外で好きな場所に座り、検査や診察を待っている間に庭に目を向けられるよう計画しました。時間とともに変化する自然の表情を楽しみながら、豊かな時間を過ごしてもらえる空間を目指しています。この建物が地域の人々にとって公園のように開かれた場所でありながら、少しだけプライベートな場所でもあるような、親しみの持てる空間になることを目指しました。
小さな建築で、とてもシンプルな構成に見えますが、随所に複雑なディテールがあり、それを実現してくださった施工者の技術と努力なくしては完成しませんでした。深く感謝しています。

都城こみぞ眼科 / Miyakonojo Komizo Eye Clinic

都城こみぞ眼科 / Miyakonojo Komizo Eye Clinic

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今後はどのような作品を制作していきたいですか。
その建築が建つことによって周囲の環境がより良くなり、人々の生活が豊かになるような空間をつくっていきたいと考えています。
ADFについてどのような感想をお持ちですか。
日本では、建築家はヨーロッパなどの諸外国と比べて社会的地位があまり高くなく、残念ながら絶対に必要な職種とは言い難いのが現状です。そうした状況の中で、日本発の国際的なアワードを創設し、デザインというものを社会に根付かせようとされていることは素晴らしい取り組みだと思います。